「サウジ人 働かない」!?

インターネットで「サウジ人」と検索してみてください。
そうすると、検索候補にすかさず「サウジ人 働かない」というフレーズが表示される筈です。
この先サウジアラビアに駐在・出張するあなたにとって、簡単には見過ごせないところですよね。
一体「サウジ人 働かない」とはどういうことなのか、もしその通りならあなたはサウジでどう対処すればいいのか、一緒に見ていきましょう。
会社に勤めるサウジ人像
サウジアラビアで少しでも会社のサウジ人と関わりを持つようになると、あなたも早々に気付くかもしれませんが、正直なところ、一般的にサウジ人は真面目に働きません。
無断の遅刻、早退、欠勤はザラで、事後連絡が有ればまだいい方。
毎日ちゃんと定時に来て、勤務時間が終わるまで会社にいたら、それだけで真面目な人と感じてしまうでしょう。
しかし、そんなサウジ人が会社に居たら居たで、それもまたあなたの頭痛の種になりかねません。
出社してもお茶を飲んで談笑したり、スマホで家族や知人に電話をしたり、動画を見たり。
やっと仕事を始めたかと思えば、誰かが話しかけてきて、またそこから話に花が咲くことも。
話もひと段落着いて今度こそ仕事を始めたかと思ったら、イヤフォンをして音楽を聴きながらの勤務。
・・・という描写は決してあり得ない誇張話ではなく、サウジアラビアの会社で日常的と言える光景です。
一方、こうした勤務態度とは別に、仕事の処理能力に目を転じても、かなりの物足りなさが感じられることでしょう。
そんなサウジアラビア人の給料が、同じ職場の外国人と比べてかなり高い水準にあると知ると、あなたは言葉を失ってしまうかもしれません。
「サウジ人の半分以下の給料で働ているインド人やフィリピン人の方が、よっぽど真面目に働くし、能力もあるのにどうして?」
そんな疑問も湧くかもしれません。
こうした状況がまかり通っている原因は、今の仕事を一時的な就職先と捉える人が多いからです。
サウジアラビア人が理想とする就職先は、政府や公社など公共部門です。
なぜなら給料が良くて(平均で民間企業の1.5倍以上!)、勤務時間が短くて、手当が厚くて、しかも雇用が安定しているからです。
家族など親族との繋がりが強いサウジ社会では、民間企業より世間体も良いようです。
公共部門での仕事に就けない人は、一旦民間企業に就職して働きながら、或いは失業状態を選んで(失業手当も厚い)、公共部門の仕事に空きが出るのを待って応募します。
ですから会社に勤務していても、”今与えられた環境でがんばって、知識や技能を磨こう”ですとか、”少なくとも、給料分の仕事はこなそう”という意識は希薄です。
公共部門の仕事や、今より給料が上の会社があれば、簡単にいなくなってしまいます。
或いはエンジニアなど技術職であれば、資格に必要な実務経歴を得るためだけに最初から2年間で辞めるつもりで働きに来る人もいます(その後は、より条件のいい会社に就職可能)。
ワタシも、”昨日まで普通に働いていたのに、ある日突然「今日で辞めます」と言って去ってしまった”という局面を何度も目の当たりにしてきました。
どうして会社でちゃんと仕事しないの?
こうなってしまっているのには、国の成り立ちや発展の経緯が関係しています。
サウジアラビアは伝統的に遊牧民の国でしたが、1940年代以降の石油産業の発展により近代国家の体を形成してきました。
国を治めるのはサウード家という王族。
サウード家は代々、イスラム教の中でもワッハーブ派という宗派の守護者としての地位にあることで、国の統治に正統性を持ってきました。
また、国民から不満が起きないよう、石油による収入を代々、国民に分配してきました。
富の分配方法は例えば、医療が無料、教育が無料、住宅ローンが無利子といった点に見ることができます。
また、イスラム教の義務としてザカート(喜捨)を2.5%義務付けるものの、給料に対する課税はありません。
そしてもうひとつ大きな、富の分配手段が国民を公務員として手厚く雇うということです。
割合で見ても、サウジアラビア人の就業者は55%が公共部門に勤めています。
(もっとも、国の補助は減っています。2014年の原油価格下落以来、2020年で7年連続という財政赤字が大きく響いています)
これら一連の富の分配政策、ひと言でいうと「お金はあげるから、国がやることに口を出してくれるな」ということですね。
また、石油の採掘が本格的に広がっていった1940年代から、石油産業を回していくのに必要な技能や労働力は、自国民よりも低賃金であっても働く意欲がある外国人が担ってきました。
また、石油以外の主な産業といえば、建設業、小売業、飲食業、宿泊業、運輸業などがあります。
しかしサウジ人は、身体を動かして働くのは卑しいこととして、これらの仕事を避ける風潮にあります。
ですから、全体的に国の産業は外国人労働者が受け皿となって、担っています。
国は特に失業状態の若者の失業も、民間企業でのサウジ人の勤務をもっと一般化させようと、企業に一定比率以上のサウジアラビア人の雇用を求める政策サウダイゼーションを打ち出しています。
本来でしたらサウジアラビア人には、以前とは異なる職業観が求められていますが、人々のメンタルはまだ時代の変化を受け入れられずにいます。
サウジ人のことを、現状認識が甘いと断ずるのは簡単です。
しかし、会社にいる「働かない」サウジアラビア人は同時に、熱心に働かなくても、仕事を選り好みしても、生活が成り立つ社会で育ってきたが故の犠牲者とも言えるでしょう。
サウジ人との仕事での向き合い方
しかし、そうした事情があるにせよ、サウジアラビアへ行ったらあなたはサウジ人と仕事をしない訳にはいきません。
”働かないサウジ人”に対し、一体どう向き合えばよいでしょうか?
1.期待しない
社会的環境のせいで、日本であれば考えにくい価値観を持ってしまった犠牲者、と考えますと、会社のサウジ人に日本の物差しを当てても、仕方のないことです。
サウジアラビアの特有の事情を理解して(納得は不要)、現状を受け入れてください。
そうすれば、現実と理想とのギャップにも、無用にイライラすることもありません。
ここでイライラしてしまっては、あなたが一方的に疲れてしまいます。
ただでさえ暑さで疲労が溜まりやすいサウジアラビアでは、まず心身の健康を保つことがサウジ滞在を全うするコツです。
ですから、できるだけストレスや疲労のタネは抱え込まないよう、会社のサウジ人に対してフラットな気持ちで臨むよう心掛けましょう。
2.仕事を単純作業に落とし込む
サウジ人が行う業務は、できるだけ単純な「作業」に落とし込めるのが理想です。
サウジアラビア人に対しては、長期間会社に勤めて、経験を積んで知見を深め、一人前の戦力に育つ、というシナリオがなかなか描けません。
例えば「せっかく日本から指導に行っても直ぐに辞めちゃうから、サウジへ行く度に違う人を教育している・・・」といった類の話も珍しくありません。
ですから理想としては、サウジ人にやってもらう仕事は、専門知識や技能がない人でも、物事を分析・判断する必要なく淡々とこなせるよう、業務を細分化・マニュアル化して、できる限り単純作業に落とし込むことです。
3.今の仕事が将来に繋がるという視点を提供する
あなたがサウジで行く会社に居るサウジ人は大抵、決して高くないモチベーションで働いています。
ですが、あなたが直接働きかけることで、今よりもそのモチベーションを高めることは可能です。
「今この会社に居る間に、具体的にこの知識とあの技能を身に付けたら、今後あなたが他社へステップアップしたくなっても、そのときに必ず役に立つ」
「あなたがこの業種・職種でキャリアを築きたいなら、このスキルとあの知見が必要だ。これがあれば、例え将来もっと大きなところへステップアップしたくなっても、他の応募者を一線を画すことができる」
「あなたがここで、これとあれをできるようになったら、もし将来他社へ移りたくなっても、私が推薦状を書いてあげる」
どの人が長く働きそうかそうでないかは、見極めるのは非常に困難です(態度や印象は悲しくなるくらい当てにはなりません)。
また、いずれにしても、あなたの会社に居る間は、せめて会社の妨げにはならないで欲しいところですよね。
ですから最初から、長く働くことはないだろうということを前提に、ここまで言ってしまうのも十分ありです。
まとめ
1.
サウジ人は、特に民間企業では、日本で日本人に期待するような勤労意識、パフォーマンスを期待するのは難しい。
2.
しかし、決してサウジ人の資質に起因するものではなく、社会的環境の犠牲者でもある。
3.
サウジ人との仕事にあたっては、あなたの割り切り、業務の細分化、”現在の頑張りが将来に繋がる”という語りかけが有効。